今日はローカルな話題になっちゃうのだが、もともとネットの番外地みたいなブログなので、マイナーなことを書くのは毎度のお約束である。僕の出身地というのが、四国にある某K県のT市というところで……と匿名で書いても意味ないので、ぶっちゃけると香川県(うどん県)高松市である。ここに宮脇書店という本屋がありまして、一応全国展開しとるので名前を知っている諸君もいることと思うが、その宮脇書店・本店の話なのだ。といっても新しくできた埋め立て地のやつではなくて、丸亀町商店街にある昔からある本店の方。今では新館の方が豪華になってしまったが、僕が高1くらいの時に倉庫を改装して、初めてあの場所に新館ができたのである。現在の地上8階とかいうビルではなくて、平屋建てのリカちゃんハウスみたいな建物であった。
当時はもちろん旧舘がメインであって、新館の方は文学全集とか誰も買いそうにないマイナーな雑誌とか、ちょっとエロい本とかを並べていて閑散としておった。その静かな雰囲気が好きで、僕はいつもここに入り浸っていたんだが、そこでSFペーパーバックという代物と出会ったのである。昔よくあった、クルクル回転するスタンドに陳列して隅の方に置いてあっただけなんですが、物心ついて以来のSFマニアとしては、これは見逃すわけにはいかない。といっても、所詮は地方の本屋なので大したものは置いてないのよ。普通の文学書だとディケンズ、モーム、アガサ・クリスティくらいで、SFとなると「夏への扉」「ファウンデーション」「2001年宇宙の旅」といった御三家の有名作がせいぜいで、映画が公開されると「ブレードランナー」「砂の惑星」なんかが一冊出現するという感じ。高校生なのでろくに読めないんだが(今も読めないけど)、そういうのを見つけ次第に購入しては悦に入っていたわけである。

しかし、前の記事にも書いたと思うが、中学から高校時代は僕にとって、SFから離れていた空白期なのであった。この宮脇書店・本店新館では、河出書房新社のドストエーフスキイ全集を一冊ずつ購入していったことが最大の思い出だったりする。米川正夫訳なので、ドストエフスキイではなくてドストエーフスキイと伸ばすところがミソである。仮面ラーイダV3みたいなものだな(ちょっと違います)。しかしなにしろ豪華本で一冊2000円くらいするので、そうそう買えないのである。ときどき昼飯を抜いたりしてまで買っていたんだが、東京の大学に入って古本屋通いをするようになったら、ワゴンで200円で売っているので倒れそうになってしまった。ペーパーバックでいえば、紀伊国屋とか三省堂へ行ったら、フロア全部が洋書で埋め尽くされているのを見て、ショックと嬉しさでしばらく呼吸困難になったのである。地方少年には刺激が強すぎて、まったく命が危なかった。
そんなこともあって、二十歳くらいから再びSFファンに復帰してきて、神保町で原書を探すようになったのである。神保町へ行くと、なにはさておき北沢書店に入って本のカビの匂いを堪能するのが好きだった。北沢書店の1階フロアが閉鎖されてしまったのは悲しいことである。さて、SFペーパーバックの話だけれど、高松市にいた頃にはどういう仕入れルートなのか、オーストラリアで出版されたものしか回ってこなかったのだ。しかしさすがに東京は一味違うというか、アメリカの有名レーベルのものがズラッと出ているので、それだけでもカルチャーショックなのであった。手に入りやすいのはやはり御三家、あとはヴォークトの作品くらいだったが(そういえば、昔はヴォークトの評価が妙に高かったですな)。しかし今みたいにネットで何でも買えるわけではなくて、巻末に載っている商品案内をレジのお姉さんに見せて「これ取り寄せたいんですけどー」と言ったら、店長が出てきて「どうしたもんだろ」と頭をひねるという、とにかくアナログで牧歌的な時代であったのだ。
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最終更新日 : 2021-03-23