サイバーパンクと聞いてとにかく頭に浮かぶ作品といえば、まずは「ニューロマンサー」であろう。80年代後半を席巻したサイバーパンク・ブームであるが、一時期はサイバーパンクに非ずばSFに非ず、ニューロマンサーこそがSFであって、御三家をはじめとするオールドSFは絶滅すべき敵だ!みたいな言説がまかり通っていたのである。覚めてしまえば、あの熱狂は何だったんだろうと茫然とする、という図式は今も昔も変わりないようで。とにかく、僕は御三家の中でもハインラインを信奉する古いタイプのストーリー至上主義者であり、しかも右翼(おい)ときているから、当時二十代にもかかわらず、今で言う老害みたいな扱いを受けていたものだ。
などと言いつつ、サイバーパンク嫌いの僕にしても「ニューロマンサー」とか「ハードワイヤード」は購入したのだから、世間的にはずいぶん売れたんだろうなーと思う。そして、作品的にも読んで読めないことはなく、まだギリギリで「話せば分かる」ところがあったのも確かなのだ。ところが今世紀に入ってからの特異点がどうたらとか、セカイ系がどうしたとかいったニューなんちゃらSF(何のことやら分からんけど)に至っては、小説として下手くそだし面白くもないし、早川や創元は何をやっとるのかと言いたい。
そんなことはどうでもいいんだが、サイバーパンクで沸き立っていた80年代後半、僕は時代と完全に逆行するように、再びハインライン(右翼ジジイ)の作品に打ちのめされていたのである。というのも、SFブームがひとつの頂点を迎えた余禄だろうと思うのだが、この時期に「未来史シリーズ」とかジュヴナイル作品とかいった、数十年の長きにわたって幻と言われていた名作群が、早川文庫・創元推理文庫で矢継ぎ早に刊行されたのである。僕はそれらの本が出るそばから買って帰っては徹夜で読み続けた。あまりの面白さに我を忘れる感じで、改めてハインラインの天才ストーリーテラーぶりに度肝を抜かれたのだった。

ところで、渋谷駅ハチ公口を出た正面に、大盛堂書店という本屋がある。でっかい看板が出ているのでいつもニュース映像に映っているのだが、どうもこのごろ、あれが渋谷名物の老舗書店・大盛堂だと勘違いしてブログ記事を書いているゆとりが増えているような気がする。あれは最近できた別の店舗でしてな、ワシがいつも通っていた大盛堂書店は、公園通り(神宮通り)の西武百貨店の向かいあたりにあったのじゃー。ビルが一軒丸ごと本屋という、大艦巨砲主義も極まれりといった感じのバカバカしいまでに豪華な本屋であった。わが青春の街・渋谷にあっても真っ先に脳裏に浮かぶ存在である。
それから、旧・東横線ホームから陸橋を渡ったところにある東急文化会館には、三省堂が入っていた。東急文化会館といえばもちろん、渋谷パンテオンや渋谷東急といった高級な映画館でおなじみだが、僕はどちらかといえば地下にある東急レックスが好きだった。ちょっとボロっちいところに親しみが持てるし、牧伸二の大正テレビ寄席の収録をやっていた場所でもある。南口のバス停の先にある東急プラザには、最上階に紀伊国屋があった。ここも隣のレコード屋ともども、毎日のように足を運んだ店である。地下鉄・新玉川線の駅から地下街を進んだところにあったのが、旭屋書店なのであるが、これが現在の大盛堂の看板がある位置だろうか。といった具合に、大手書店が渋谷駅近くに集結していたんだから、まさに隔世の感と言わざるを得ない。
今日はサイバーパンクの悪口を書こうと思っていたんだが、消滅した本屋を紹介する話になってしまった。こんなのを今のゆとり諸君に語っても全く何のことやら分からないし、僕自身が老害の見本みたいで、実に困ったものである。さて次回は、サイバーパンクの恩恵を受けて出版されたハインライン作品について感想を書いてみたいと思う。
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最終更新日 : 2021-03-23