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2022-02-24 (Thu) 13:50

「ファイアフォックス」 ステルスは戦闘機だけにしてください


コロナはずじゃなかったよねーというわけで、迷える子羊の諸君、いかがおすごしでしょうか。今度はステルスオミクロンの登場だそうですが、現れないからステルスオミクロンなんですう、とピンクレディーふうに言ってみたくなりますな。なんでも、検査で見つけられないうえに、症状も出ないという恐ろしい病気だそうで、いつ感染したのかいつ治ったのかも分からないので、日本中パニックになるみたいですね(それを健康体と言うのでは……)。これに対抗するには、凡人には見えない薬を飲んだふりするしかないんだろうなー。もう何やってるんだかわけが分からんね。ステルスというのはレーダーで探知できない戦闘機のことですが、戦闘機の小説とくればもちろんクレイグ・トーマスの「ファイアフォックス」なのじゃ、と強引に話を展開させてしまおう。


もっとも、この小説はステルスが一般的になる時代より前の話なんでしょうが、きっかけとなる事件が実際に日本で起きたんだよね。ベレンコ中尉の操縦するミグ25が函館空港に強行着陸するという、いわゆる「ミグ25事件」といえば、今なおわれわれナウなヤングの記憶に新しいところである。このときの日本側の対応がすばらしくて、警察に電話したら「そんなことは自衛隊に言え」と知らん顔され、自衛隊に通報したら「着陸して以降は警察の管轄だ」と断られたそうですな。おそらく露助が大挙して攻め込んできてもこういう調子なのであろう。この際の戦闘機はミグ25で、「ファイアフォックス」に出てくる夢の最新鋭機はミグ31ということになっとるが、もちろん実在のミグ31とは全く別物のSF的なハイテク機だそうである。要するに、クレイグ・トーマスがこのミグ25事件にヒントを得て小説を書いたことは間違いないだろう。


さて、この「ファイアフォックス」は大ベストセラーになり、クリント・イーストウッドが鳴り物入りという感じで大作映画にしたんだが、はっきり言って映画の方はちょっとガッカリでした。アクション映画として決して悪くはないんだけど、期待の割にはもうひとつすっきりいかなかった感が強い。この小説はどちらかと言えば心理サスペンスの面白さであって、ソ連に潜入してファイアフォックスにたどり着くまでの恐怖の道行きに負うところが大きいのである。つまるところ、ヒッチコックの「引き裂かれたカーテン」みたいな面白さがメインではないだろうか。しかし主役のクリント・イーストウッドはもともとかなり強そうなので、ピンチがあんまりピンチに見えないんだなあ。だから前半は下手な007ふうだし、後半の脱出シーンは当時のショボいCG丸出しで興ざめがして、結果としてつかみどころのないサスペンス映画に終わってしまったようだ。


ところで、80年代後半には「レッド・オクトーバーを追え!」のヒットをきっかけにして、ハイテク軍事スリラーが一大ブームを呼ぶことになった。俯瞰的に見るならば、まだまだ荒唐無稽という批判は強かったものの、「タイタニックを引き揚げろ」「ファイアフォックス」あたりがそのジャンルの嚆矢と言えるのかも知れない。しかし拙者の感想としては、「レッド・オクトーバー」にはじまる一連のトム・クランシーの作品は面白くも何ともないんだから困ってしまうんだなー。ボタンを「ポチッとな」で勝負がついてしまう戦闘なんてクソ面白くもなく、やはり身体を張って露助の火事場泥棒どもと対決する70年代ヒーローに魅かれてしまうのである。







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最終更新日 : 2022-02-24

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