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2022-01-20 (Thu) 14:07

デズモンド・バグリイ「ゴールデン・キール」 男は男らしく女は女らしく


世界情勢を見るにつけ、そろそろこの茶番も幕引きにかかっているように思えるのだが、国内ではまたぞろまん防・天気予報てなことを言っておるのである。これは政治家たちがあとから文句をつけられないように、仕事してますアピールとアリバイ作りのための姑息な行動に出ているせいであろう。昔、ポスト佐藤の面々を三角大福中と称したものだが、一番小物と見えた中曽根にしても、毀誉褒貶はあったものの自分の考えをしっかり語っていたように思う。次の竹下あたりから意味のない美辞麗句だけ並べて言語明瞭・意味不明瞭を売りにするようになって、誰も責任を取らない女々しい世の中になっていったような気がするのである。まあそんなことはどうでもいいんですが(いいのかよ)、話題はデズモンド・バグリイである。今年に入って読書日記を新たにやりはじめたのは、ひとえにバグリイ作品をじっくりと読みたかったからなので、いよいよ満を持して登場という感じなのだ。


英国冒険小説の巨匠といえばアリステア・マクリーン、そしてハモンド・イネスの名前が思い浮かび、さらに当代(といっても70年代の話だけど)の人気作家であるジャック・ヒギンズとギャビン・ライアルの両者が挙げられる。そんな名人たちの中に入っても、デズモンド・バグリイの職人的な小説巧者ぶりは頭ひとつ抜きん出ているように思われる。前回、ほとんど素人であるルシアン・ネイハムとか富野とかを取り上げたからさらにその思いが強まるんだけど、バグリイの上手さは心憎いほどである。まずプロットが骨太であり、そこに装飾として加えられるディテールが精密に彫り上げられているさまは、まさにエンタメの教科書と言うべきだ。もっとも、僕は下手な小説を否定しているわけではなく、ただ単に上手い人が好きだと言っているのである。バグリイの場合、描写があまりに緻密かつ巧緻あるため、逆に不思議な可笑しみを感じることがある。「ゴールデン・キール」で言えば、主人公は南アフリカで成功を収めた造船技師であって、安楽に暮らせるだけの富を得ているというのに、なんで死ぬ思いをしてまで財宝を掘りに行かねばならないのか、読んでいてしばしば笑いがこみあげてくるのだ。「高い砦」に至っては、共産主義者と一戦交えるのにわざわざ中世の武器を自作するさまを大真面目に描写しており、これはもうほとんどギャグの領域であろう。


ところで、「ゴールデン・キール」は海洋小説に分類されることが多いのだが、このことが海洋小説ファンにとっては不満の残る部分であるようだ。海洋小説とは「女王陛下のユリシーズ号」や「脱出航路」のように、あるいはホーンブロワー・シリーズのように、海洋そのものが主要テーマでなければならないという共通認識が根強いようである。その点、この作品の場合は主人公が船のプロだから海路を利用しているにすぎず、仮に車のプロであったなら陸路を使っただろうし、それでも小説としては十分に成立するのである。つまり「ゴールデン・キール」においては、大海原や悪天候との壮絶な戦いは作品を彩るひとつのアクセントにすぎず、物語の主眼はあくまで黄金をめぐっての男たちの戦いにある。この作品はバグリイにとって公式の第一作目であり(死後発表された一作目が別にあるんだけど)、それ以降は海洋ものを書いていないので、この処女作がさらに異彩を放つ結果となったようだ。確かに、バグリイの代表作となると「高い砦」「砂漠の略奪者」といった作品が先に来るので、海を舞台にしたストーリーはミスマッチに思えるのだが、ところがどっこい(死語)クライマックスの船同士の激闘と、ニヤリとさせられるラストはバグリイの小説巧者ぶり全開で、一読の価値ありと言っておこう。


マクリーンとイネスという両巨匠の後を継ぐはずの存在、それがまさしくバグリイだったのであるが、惜しくも59歳で急逝してしまった。それなりに数多くの名作を残したと言えるんだけど、彼に関しては若死にという感じがする。冒険小説ファンには説明無用の存在とはいえ、世間一般的に一番有名な作品は、ポール・ニューマン主演で映画化された「マッキントッシュの男」かも知れない。繰り返し述べてきたように、とにかく小説が巧みな人という印象であって、失敗作というものが考えられない珍しい作家である。これはあくまでプロットを重視する英国冒険小説の伝統にのっとった作風のたまもので、同時にそれがバグリイの限界であり古さでもあるようだ。バグリイ作品には魅力的な美しいヒロインが登場し、この紅一点の存在が抜群の面白さにいつも花を添えている。しかし、よく考えてみるとこの理想的なヒロイン像は、あくまでわれわれ昭和の男性読者にとって都合のいい、古い時代の理想の女性像なのである。今ならフェミやジェンダー方面の連中から攻撃されそうなんだが、ああいったアホどもは高尚な冒険小説など読むわけがないから、心配する必要もないのであった。そうなるとバグリイを筆頭とする冒険小説の世界こそ、「男は男らしく、女は女らしく」という人類の真理が生き続ける最後の理想郷であるのかも知れない。







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最終更新日 : 2022-01-20

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