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2021-04-17 (Sat) 13:55

北杜夫「どくとるマンボウ青春記」 中学生が影響された青春の書


このごろのブログ記事にはテンプレがあるようで、みんな同じようなスタイルで「目次」なんて見出しをつけていて、よく見ると中身より目次の方が凝っていたりする。あと、検索に好かれるコツは有益な内容の記事を書くこと、自分の意見を書かないことだそうで、そんなことやっていて何が楽しいんだろうと思ってしまう。面白おかしく好きなように書いてこその文章だろうと思うのだけれど、世の中の流れに乗れないやつのことを老害と言うのだそうで、そういう風潮になってくるとますます、マニュアルどおりにしかやれない連中(たいてい女かゆとりだが)を揶揄する傾向が強くなってきて、差別主義者と言われてしまうのだった。まあ実際に差別主義者なんですが(笑)、文章は自由に書くべきだという思いは中学時代から全く変わっておらず、このところ当時の愛読書を読み返すことで、ますますその老害傾向が強まってきたようだ。


その当時、つまり70年代頃の中学生が愛読するのは、まず星新一とか、北杜夫や遠藤周作の軽妙なエッセイだったと思う。この前、若い子と話をしたら「星新一なんて知らない」と言っていたが、本当にそんなやつがいるのだろうか。まあそれはいいんだけど、僕の場合は家にあった北杜夫のエッセイとか「航海記」なんかを読んで、それから「楡家の人びと」を知って、こんな凄い作家だったのかとびっくりさせられたのである。その中で一番感銘を受けたのは「どくとるマンボウ青春記」であった。アマゾンだと新潮文庫しかヒットしないが、僕が読んだものは中公文庫で、やはりこのカバー絵にビビビッとくる。面白さとノリのよさでは、北杜夫の全作品の中でも随一と言っていい一作だろう。当時の年齢的にいっても、昔の青春像が描かれている作品に強く惹かれる思いが強く、戦中・戦後の若者が主人公の作品を、この時期にずいぶん読んだような気がする。第三の新人の人たちは斜に構えた戦争批判という感じがあるが、北杜夫のような昭和世代になると、もっと楽天的で戦後の比重の方が強くなってくるようだ。


どくとるマンボウ青春記


旧制高校とかバンカラとか言われても、もちろん僕には分からない。蛍雪時代に受験ユーモアというコーナーがあって、要するに読者投稿のコントなんだが、これはおそらく創刊当初からやっているのではないか。その受験ユーモアの戦前の作品を見ていると、旧制高校に対する憧れの一端を想像することができるようだ。僕が行っていた大学の教養課程(今そういうのある?)だって、戦前には大学予科と言っていたところなんで、全然縁がないわけではない。それで思い出したんだが、早坂暁の小説で「ダウンタウン・ヒーローズ」というのがあって、薬師丸ひろ子主演で映画化されたので見た人もいるかも知れない。早坂暁も監督の山田洋次も旧制高校に入学した世代で、映画のはしばしに「どくとるマンボウ青春記」に共通するものがあった。卓球の試合中に応援団の大うちわでボールをあおいでしまうところなんか、完全に北杜夫ワールドである。


さて、「どくとるマンボウ青春記」「ダウンタウン・ヒーローズ」ときて、僕が次に連想するのが、井上靖の「北の海」という作品なのである。これは知る人ぞ知る傑作であって、受験とか勉強とかで悩んでいる人にはぜひおすすめしたい一作。といっても全く受験の役には立たないし、却って頭が悪くなりそうな話なんだが。中学生がよく読書感想文のネタにする「しろばんば」の系列の作品で、いわばその浪人編なんだけど、面白さとハチャメチャぶりではシリーズ中でも群を抜いている。主人公(井上靖をモデルにした少年)は高校受験に失敗した浪人なんだけど、なぜか毎日母校に通って柔道ばかりやっていて、さらに入学してもいない金沢の高校で柔道部の稽古に紛れ込んでしまう。恩師や友人たちに対する徹底的な「受験勉強するする詐欺」ぶりには抱腹絶倒である。こうしてみると、人生の役に立たない書物の方が読んでいて面白いようだ。無益な記事を個人の意見つきで書く老害のブログ、という検索に嫌われる要素とやらが、一周まわって貴重なのではないかという気がしてきた。







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最終更新日 : 2021-04-17

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