文学チャンネル

SFを中心に新作小説、翻訳、文学の話題を提供

Top Page › 読書日記 › 埴谷雄高「死霊」 安部公房「壁」 高校時代に読んだ難解な小説
2021-04-13 (Tue) 14:19

埴谷雄高「死霊」 安部公房「壁」 高校時代に読んだ難解な小説


昨日の朝、目が覚めたらかなり洗脳が解けていたようで、欠落した記憶の断片が徐々によみがえってきた。などと書くと危ない人みたいに思えるんだが(実際危ない人なんだけど)、要するにトラウマから逃れるために目を背けて現実逃避していたので、目の前にあるものが見えていなかったということなのだろう。まあその辺は前回の記事を読んでいただきたいのだが、僕にとって核になるものは純文学なのだと思う。ある時期まで「三田文学」などに投稿するゴリゴリの純文学男だったのが、もっと金になる原稿を書かねばならんという強迫観念に駆られて商業雑誌に売り込みをはじめたわけだが、今にして思えばそれが逃避だったのである。それと同時に翻訳もやりはじめたのだが、そっちの方は全く相手にされず、むしろ下手な小説を書いた方が編集者の反応はよかったのである。小説にかかわった方が風向きがよくなることをなんとなく感じてはいたが、現実逃避から逃れるきっかけがなかなか見つからなかったような気がする。


さて、そこで話はがらりと変わるんだけど、このごろの学校は土曜日も休みなのだろうか。高校時代のことを思い出すと、土曜日の4時間目が終わった時の解放感といったらなかったね。午後からは本屋で文庫本を買って、公園でハンバーガーを食いながら延々読んでいるのが最高の楽しみだったのである。実家のある町には一軒しか本屋がなかったが、高校は地方都市なので大きい書店が何軒もあり、そのぶん選択肢が広がった。この時期に読んだものを挙げれば、安部公房の「壁 S・カルマ氏の犯罪」、中島敦「山月記」、プーシキン「ベールキン物語」、トーマス・マン「トニオ・クレーゲル」、そして河出書房新社のドストエーフスキイ全集など、タイトルを列挙するだけで泣きそうになってくる。安部公房の「壁」を高校生が読んで理解できるとも思えんのだが、どちらかといえばSF的・通俗的な部分に共鳴して面白がっていたのだろう。安部公房自身が星新一を意識していたふしがあり、「壁」「砂の女」なんかはむしろナンセンスSFとしてとらえた方が入りやすいような気がするのだ。などと言ったら顔を真っ赤にして怒り出す安部公房ファン(たいてい左翼)がいるわけだが。


死霊


それから、埴谷雄高の「死霊」も忘れがたい作品だった。これは「しりょう」かと思ったら「しれい」だったでござる、というオチのつく一作なんだが(どんなオチだ)、しかし地方の高校生が読むにしてはあまりに渋すぎる。おそらくは三田誠広のエッセイを読んでいて、しきりにそのタイトルが出てくるので影響されたのだろう。僕は三田誠広や彼と同世代の作家たちの思想信条とは全く相容れない右翼で差別主義者であるが、彼の小説論に関してはかなり敬服している。というか三田さんや中上健次、高橋三千綱といった面々の直接的影響を受けて小説を書いていたと言ってもいいほどだ。と同時に、われわれの世代には学生運動をやっていた連中に対する不信感があり、第三の新人をさらに甘ったるくしたような作風に反発を覚えてしまうのも確かなのである。しかし、そういうこっちは新人類と呼ばれたさらに甘い世代なので笑ってしまうのだが、バブル崩壊による価値観の喪失という「第二の敗戦」を味わったわれわれの方が偉いということもできる(何の話だよ)。


冗談はさておいて、80年頃には「死霊」は手に入れるのが難しくて、僕は河出書房新社の埴谷雄高作品集第一巻を三千円くらいで買ったような気がする。その後、講談社から刊行された第二巻(4章から6章まで)を購入した。そして十数年後に三冊目が出て、9章まで発表された段階で未完のまま終了ということになった。この作品はとにかく難解ということが言われるが、筋立てとか作風は戦前の探偵小説のような、妙に通俗的な味わいがある。そしてバカバカしいドタバタ展開のシーンもあって、そういう部分を前面に出していればもっと読みやすかったのだろう。おそらくは「カラマーゾフの兄弟」の影響を強く受けて書かれた作品であり、サスペンス的に展開するのかと思いきや、登場人物が訳のわからん独白を延々と続けたりするあたりは、ドストエーフスキイ信奉者としては「埴谷やるな!」という感じである。難解は難解でよくて、無理に理解しようとすることもない。ドストエーフスキイの長編だって、サスペンスものとして読むこともできるではないか。どんな読者も拒まない懐の深さが、名作の名作たる所以なのである。でも「死霊」は全然分からないんだけどね(笑)。







クリックお願いしまーす



ファンタジー・SF小説ランキング

関連記事

最終更新日 : 2021-04-13

Comment







管理者にだけ表示を許可