当サイト的にはドストエフスキイではなくドストエーフスキイであるように、デイヴィッド・コパフィールドなのかデイヴィッド・カッパーフィールドなのかも迷うところなのである。後者で検索すると手品師の動画ばかりが出てくるわけだが、もちろんやつもその辺を狙って芸名に用いているのであろう。数年前になんとなくディケンズを読みたくなって、ネットで調べてみたところ、文庫に入っている有名作はいいとしても「骨董屋」「荒涼館」あたりの評価の高い作品でも手に入りにくいので、ちょっとショックを受けてしまった。そもそもディケンズという名前が古色蒼然というところがあって、気の利いた者ならば「いまさらディケンズ?」という反応を示すところがある。そこいらはわが国における夏目漱石と似たところがあって、中学校の教科書に載ってるような作品をいい齢して読むんですか?という感じなのであろう。
さて、ディケンズ作品の中で日本人に最も知られているのは、意外と「クリスマス・キャロル」かも知れない。ハートウォーミングな児童向け作品で、たいていの出版社から出てるしね。それから「二都物語」もかなりメジャーだろうと思う。どこかのサイトで見たんだが、人類史上一番売れた小説本は「二都物語」なのだそうだ。この二作はよくまとまっていて筋が分かりやすいところが特徴なんだけど、僕に言わせればディケンズらしくない小説ベスト2なんだから困ってしまう。僕の考えるディケンズのいいところは、いきあたりばったりに適当なことを書いてそこそこ面白く、なんか分からないけど作品として成立してしまうところなのだ。だから「オリバー・ツイスト」「デイヴィッド・コパフィールド」が馬鹿好きなんだが、ディケンズ自身がこれではいかんと思いたって、無理矢理にきっちり構成をやり出したのが「二都物語」なのである。だから最後の大作「大いなる遺産」も、作品的完成度は異常に高くなっているんだけど、変に脱線して無駄に筋がこんがらがる初期の作風は失われてしまった。

とはいうものの、僕自身はかなり頑固なストーリー構成至上主義者でありまして、いきあたりばったりに書かれた小説は基本的に好きじゃないのだ。ハインラインでいえば初期短編とか、長編だと「人形つかい」「宇宙の孤児」「宇宙の戦士」みたいな、余計なものを削ぎ落してゴリゴリに構成されたストロング・スタイル(?)作品の信奉者なのである。だから登場キャラが延々と井戸端会議をやらかす後期の作風は困ったものだと思っていて、「異星の客」「悪徳なんかこわくない」なんかは全く評価してないのだ。しかもジジイの倫理観がどんどん古くなってきて、今でいえば2Fと森元の議論みたいで読んじゃいられないのよ。ところが、ディケンズの「オリバー・ツイスト」「デヴィ・コパ」は井戸端会議をやっとるのに結構面白いし、ストーリーがどんどん転がっていくのが不思議なところなのである。おそらくは近代小説以前の作品なのでキャラが悪く言えばステロタイプであり、現代人みたいに妙な主義主張を振りまわさないことが奇跡的にうまく作用しているのであろう。
ところで、先般ふと「十二国記」を読みたくなったので、講談社X文庫版を大人買いした(新しい新潮文庫版は高いので)。アニメは見ていたので筋はまあまあ知っとるんだが、やはり中嶋陽子を主人公にした「月の影 影の海」「風の万里 黎明の空」の完成度が高い。しかし後になるにつれて苦しくなってきて、人気に押されて一般文庫で先行発売された「黄昏の岸 暁の天」にいたってはシチュエーション以外はほぼ内容がなく、これは作者もキツそうだなあと思ったのである。作者自身がかなり初期からあとがきで「なんでこんなに長くなるのか」とぼやいていたが、まさに井戸端会議小説をやっているんだから長くなって当然。答えのない問題について登場キャラが会話で延々と考察しているのが近年の「十二国記」であり、これだと議論をやめないかぎり枚数ばかりが永遠にかさんでゆく。これを断ち切るには、初期作品のようなストーリー構成重視に立ち返るしかないわけだが、ベストセラーとして地位が確立した今となっては、芸風を変えようとしても難しいのだろう。だいたい、女の井戸端会議小説なんだから、これは長くなるのも道理である。(ショートショートみたいなオチだな)

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最終更新日 : 2021-03-31